ウチダ トモコ ウチダ トモコ 70ヶ月前

水やりをもっと簡単に。もっとアクティブに。[2]


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オリジナル水分計の開発が始まる。


参考にした商品があったとはいえ、折原さんが目指すものは、まだ世界のどこにもないもの。
アイデアは思い浮かんでも、それをいざ形にすることは非常に難しいものです。これは、ものづくりをしたことがある方なら、誰でもうなずくのではないでしょうか。
特に折原さんは、最初から水分計の商品化を考えていたため、自作品が完成すればゴールではありませんでした。

 

折原式水分計のケースを製作できるメーカーは、
世界のどこにも存在しなかった


△ ホームセンターで調達した樹脂管を切ったり穴を開けたりして加工。本当に手作り! 
写真提供/キャビノチェ株式会社



△ 開発当時のアイデアメモ。 
写真提供/キャビノチェ株式会社


△ 試行錯誤した試作品の一部を見せていただきました。


自作のケースのプロトタイプができあがったものの、それを量産するためには金型が必要です。金型をつくり、樹脂製品を量産できるメーカー探しも苦難の連続でした。

「世界中探しても、このケースをつくる技術をもつメーカーは存在しなかったのです。数え切れないほどのメーカーや町工場を回り、協力してくださる樹脂製造メーカーさんが見つかりました」(折原さん)


△ 左から、折原さん、プロダクトデザイナーの中林鉄太郎さん、樹脂製造メーカーの方々。
折原さんの難問に応えるべく、誰も成し遂げられなかった未知への領域へ、製造業の新たな挑戦が始まりました。検討の結果、ケースの素材は、丈夫さと価格、デザイン性を考慮して、ポリカーボネートに決定。 写真提供/キャビノチェ株式会社

 

折原式水分計の芯は、
至ってシンプルな構造

製品のケースから苦難を強いられた折原さん。次は、土中の水分量を目視できるような仕組みづくりです。折原さんのコンセプトでは、電池などエネルギーを一切使わずに有効水分域を表す方法を目指していました。前出のように、構造がシンプルでわかりやすい、緑色の棒状タイプを参考にしたのも、そうした理由です。

でも、あの繊細は有効水分域を、いったいどうやって現す? そんなこと、できるのかしら?



折原式水分計は、こんなにシンプルな構造


△ 写真はいずれも、素材選びのテスト段階のプロトタイプです。製品版も仕組みは同じです。

ケースの中は、紙や布、不織布などさまざまな材質でできた芯。芯の巻き方もさまざま。有効水分域の2.0を超えると乾く素材を選ぶとともに、硬さ、強さで巻いて調整してあります。
また、上部に巻かれた紙には、水分に反応すると色が変わる特殊インク(他社特許製品)が染み込ませてあります。土から芯に浸透してきた水が乾くと、色が消えるというシンプルな仕組み。 
写真提供/キャビノチェ株式会社


△ 防腐剤の含浸濃度を0.1%単位で調整する実験中。
写真提供/キャビノチェ株式会社


△ さまざまな種類の土にさして戸外に置き、耐候性や物理的、化学的な強度試験の風景。 
写真提供/キャビノチェ株式会社



テストの結果、芯材は不織布に決定。芯材には、長期間の使用でも腐敗しないように防腐剤が染み込ませてあり、約6 〜 9か月間、正常な反応を保ちます。なお、防腐剤は環境への影響が少なく、安全性の高い種類を選びました。

 

いよいよ完成した
折原式水分計

こうして様々な困難を超えて、研究機関と日本の技術力の集積によって、いよいよ折原式水分計が完成。「サスティー」と名づけられ、園芸の世界へとデビューとなりました。



△ 現在、鉢の大きさに合わせた大、中、小の3タイプを販売中。また、形状やカラー、内容は、少しずつバージョンアップされています。


△ どんな植え込み資材にも利用できます。写真はコチョウランの鉢に使用した例。

[注意]植え込み資材について:一部、土中の細菌類が強いもの、ヤシ殻資材、団粒構造が壊れた用土などでは、正確な数値が現れないことがあります。

 

世界が認めたデザイン性
サスティー


△ 「サスティー」はデビューしたとたん、世界最高峰のデザイン賞「Red Dot design award」をはじめ、国内外で数多くのデザイン賞を総なめにしているそう。ケース本体は、プロダクトデザイナーの中林鉄太郎さんのデザイン。ここでも日本の技術とセンスが光りを放っているのです。
画像提供/キャビノチェ株式会社

 


実際に使ってみた


さて、すっきりスマートな外観、堅牢さ、正確さ、使い勝手のよさと、ガーデニング資材界の期待の新星、折原式水分計「サスティー」をさっそく使ってみることに。


△ 今春にギフトでいただいた、コガクウツギ(Hydrangea luteovenosa)の八重咲き品種は、アジサイの仲間。きれいに咲いているように見えますが、よく見れば、花枝が枝垂れていて、水切れしている様子がわかります。


△ ジャーン。サスティー登場。今回は4〜6号鉢サイズ用のミディアムを利用します。
※現在このカラーは販売されていません。撮影用にわかりやすい、この色を使いました。


△ 見やすい位置の鉢土にさします。本体下部の「Ω」マークより、深い位置までさすのがポイント。


△ 水やりします。透明部分のインジケーターが青く変わっていきます。



△ 萎れ気味だった花枝がシャンとして、花房もふんわり広がるようになりました。インジケーターが白くなったら、次の水やりのタイミングです。


△ 数日後、インジケーターが白くなりました。さぁ、水やりです。

 

ショップでも販売中



△ ガーデニングショップやグリーン専門店での取り扱いもふえ、目にしたことがある人も少なくないはず。
写真は、東京都港区にある観葉植物専門店 REN のショップ内で。


当初、使い切りの手軽さを求めてきた折原さんですが、現在は地球にもお財布にもやさしい交換用中芯(リフィル)の開発に成功し、販売中です。

デザイン性が高いこともさることながら、丈夫で耐候性に優れるポリカーボネート素材のケースを、繰り返し利用できるなら、より環境にやさしいアイテムになることでしょう。
 
私たちのガーデニングを、ちょっとラクにしてくれる資材は、植物にとっても嬉しい存在。自宅用はもちろん、ギフトの鉢物にも1本、さりげなく添えて贈りたくなります。
 

「もう枯らさない私になろう」。

今夏の合言葉に、いかがですか?



水やりチェッカー SUSTEE  http://sustee.jp/
 


text & photo ウチダトモコ  取材協力 & 写真提供 キャビノチェ株式会社  取材協力 REN 


 
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この記事のライター

ウチダ トモコ
ウチダ トモコ

園芸ライター、グリーンアドバイザー、江戸東京野菜コンシェルジュ。
園芸雑誌、ライフスタイル誌などの編集、ライターを経て、現在は主にウェブで提案および取材執筆活動中。

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