花店インタビュー|接客で掴んだ信頼、ストーリーが紡ぐ多店舗展開|garage TOYOHASHI
浜松へつながる大きな県道の目の前に建つ「garage」(ガレージ)豊橋本店。
2007年オープンしたこの本店を拠点に、名古屋市内や横浜、東京でも店を構え躍進中です。こだわりのグリーンだけでなくインテリアやオリジナルで制作するラッピングアイテム等もセンスがよく、多くのファンを惹き付けています。その原点と大事にしているものとは?
まずは、お店拝見!
愛知県豊橋市にあるガレージ豊橋本店は、ブロカントが集まったインダストリアルな雰囲気の「ヤード」と、白を基調としたナチュラルな「ホーム」と名付けられた巨大な倉庫2棟で構成されています。
こちらはヤードの外観。
お客様は30~40代の方が中心ですが、鉢植え、切り花、家具、書籍など幅広く取り扱っていることから親子連れから年配の方まで楽しめるようになっています。
店内には所狭しと植物が並びます。特にオリーブの品揃えに自信を持っていて、香川県のオリーブ農家「創樹」から仕入れ、それぞれの顔をうまく見せるようにディスプレー。ブロカントは基本的にすべて販売しているそうです。歴史を感じるものが庭に入ると雰囲気がぐっと締まるのでおすすめだとか。
切り花のスペース。庭に生えている姿を愛でて、切り花にして楽しんで、ドライにするといった流れを大切にしています。
ブーケも人気です。こちらのウェディングにもふさわしいブーケは店舗前の庭で育てた植物を加えたり、庭で採れたものを束ねたような雰囲気を大切に制作したもの。
Flower&Green/ノイバラ、ヒオウギ(以上、実)、リューカデンドロン2種、エリンジウム、アジサイ、バーゼリア、アカシア、ユーカリ・ポポラス、丸葉ユーカリ、ウーリーブッシュ、グリーンスケール、アマランサス
ブーケのラッピングはネイビーなど落ち着いた色合いのワックスペーパーを使用。花束の雰囲気に合わせてオリジナルのラッピングペーパーをカットして飾ります。
こちらがそのオリジナルで制作したタブロイド風のラッピングペーパー。
ただ商品を並べるだけでなく、インテリアや雑貨とうまくミックスして配した店内を歩いていると、暮らしのなかでそれがどう見えるかが想像しやすく、より具体的なイメージが湧いてきます。
現在は上記の本店だけでなく、名古屋、横浜、東京・立川にも出店。どこもそれぞれの個性や特徴があり、いわゆるどれも同じチェーン展開のようなものではなく、その場所だからこその出会いやストーリー・ニーズによって生まれた店舗です。
photo(c)フローリスト2020年10月号より。撮影/徳田 悟
たとえば、こちらは2020年7月に東京・立川の複合型文化空間「GREEN SPRINGS」にオープンしたばかりの新店舗「Rust」(ラスト)。
“大人の園芸店”という位置づけで和のテイストも感じられるシックな造りになっていて、グリーン・インテリア・雑貨、とくに鉢の種類の多さは圧巻です。植物に詳しい「グリーンコンシェルジュ」と呼ばれるスタッフの存在も頼もしい限り。
植物を単なるモノとしてではなく、ともに暮らす存在として提案するためにお客様へのヒアリングを通して一緒に考え、専門的なアドバイスも行います。
植物とインテリアが大好きで
ガレージの代表を務めるのは二村昌彦さんです。二村さんはガーデニングアイテムのDIYに関する書籍も出していて、作ることや暮らしのクラフトにも力を注いでいます。
二村さんのご実家は種苗会社。次男として生まれ、幼い頃は両親の花苗の仕入れについて行ったりもしていたそうです。
ある日の仕入れで大きなポニーテールを見つけ「それがくすごくカッコイイと思って」仕入れてもらい部屋に飾ったり、誕生日に温室をねだって(しかし実際にプレゼントしてもらったのはミニ温室で、人が入れるくらいの温室を想像していた二村さんは少しがっかりしたそうな)みたりと、店と家が一緒になった環境で、働く両親の姿と植物が常に側にある生活でした。
だからか、将来は植物に関する仕事に就くのだろうと自然と思っていたと言います。
しかし、二村さんには植物と同じくらい興味を持っていたものがもう一つありました。雑貨屋さんです。地元愛知で高校時代までを過ごしましたが、インテリア雑誌を見ては東京に行ったら行きたい場所をチェックしていたそうです。
大学で上京し、念願の雑貨店巡りへ繰り出しました。心の中にあるベースはいつも植物でしたが、雑貨店をはじめインテリア、建築、海外旅行にも興味を持ち、学生時代はやりたいことがなかなか定まりませんでした。
最終的に就職を決める際に両親と“将来はものを仕入れて売る”ことをするのがいいのではないかという話になり、大学を卒業してホームセンターに勤めることになります。
“ものを仕入れて売る”が学べること、昔から手を動かして何かを作るのが好きで地元のホームセンターのチラシをよく見ていたこと、雑誌で見かけた記事に惹かれたこと、インテリアや雑貨が好きなこと……さまざまな要因が結びついての結論でした。
ホームセンターでは農業資材の担当を皮切りに園芸や木材の担当、店長やバイヤーも務めました。9年間働き、次のステップへと進みます。
オランダ暮らし、そして開業
「植物が好きで、いずれ自分の店を持ちたいという夢があって。でも海外で生活したいというのも思っていて」
そんな二村さんのホームセンター勤務後の進路はオランダ。縁あって種苗会社のオランダ農場で働けることになったのでした。農場では草むしりなど体力仕事がメインで、モロッコ人など外国の仲間とともに汗をかきました。休みの日には蚤の市やヨーロッパを巡り、小物などを集めたりしたそうです。
「古いものに手を加えて大切に楽しむとか、夏場晴れると急に海に行ったりするところとか。冬場は寒いので窓際に花を飾るというような文化も強くて。こういう暮らしはいいなと思いました」と、オランダでの暮らしを振り返ります。
ガレージではブロカントをディスプレー兼商品として多く取り込んでいますが、それもこの経験があったからこそ。
棚ひとつとっても使い込まれたリンゴの木箱だったりして、落ち着きのある見た目の心地よさのみならず、オランダ暮らしで得た古いものを大切にする価値観も共に提案しています。
約1年半のオランダ生活を終え帰国し、戻っていよいよ店を出そうということになったとき、自分ができること――植物とインテリアが好きで、せっかくなら好きなことを仕事にしたいと方針を決めてオープンしたのが、今のガレージ豊橋本店でした。
来客が増えた理由
いざ、試行錯誤しながら植物とインテリアを集めガレージを開業したものの、お客様がまったく来ない日々が続きました。
チラシを打つなどの広告宣伝はせず、店の存在を表していたのは小さな看板くらい。やがてポツポツお客様が来てもなかなか軌道には乗りませんでした。
「ホームセンターでも店長やバイヤーをやっていた経験があるのでどうにかなると思っていたんですが、なかなかうまくいかなくて……」。
悩みに悩み、絶えず売り場を変え、手を加えていました。そうして毎日試すなかで「ただ商品を並べるだけでは売れない、その商品を最大限よく見せるようにしなきゃ」と、現在のインテリアや雑貨とともに暮らしのなかでの植物を提案するスタイルができ上がっていきます。
店のアンティークな雰囲気がよく似合うブーケ。ギフト需要も高い。
現在は人気店となったガレージ。そのきっかけとなる出来事があったのかと二村さんに伺ったところ、クチコミで徐々にとのことでした。クチコミというと何だか知らないうちに人から人に伝わって……という他動的なイメージですが、クチコミに至るまでには明確な努力がありました。
「このお客様は今日初めての来店だから、こういう接客をして、うちはこういうお店ですよと説明して。納得してから(商品を)購入していただこう」
「この方はこの前来てくださったから今回はこれを進めよう」
「この方は3回目だからこうしてみよう」
お客様の顔を覚えて、来店ごとにその人に合った提案をしていったのです。
「不思議なものなんですがサラリーマンとして勤めていたらそこまで覚えられなかったかもしれません。でも毎日必死だったので自然と覚えていて、覚えているとお客様がよろこんでくれました。モノを売るって信頼関係なので、覚えていてくれるなら間違いがないと思ってくれて、徐々にお客様が増えていった感じです」
そのうち商品も「あのお客様だったらこれを気に入るのでは」と、お客様の顔を浮かべながら仕入れるように。オープンから間もない当時は、経営的に仕入れたら必ず売らなければならないというミスは許されない環境で、そのプレッシャーのなかでも「お客様の顔が浮かばないものは仕入れることを辞めました」。
クチコミに関しては、美容師のお客様たちの存在も大きかったそうです。
「美容師の方々は感度が高くて。毎週月曜日来てくれたり、カットするときにお客様とお話をするときに『そういえばあそこにお店(ガレージのこと)があるけど行ったことあります?』みたいにいろいろ紹介してくれて、徐々にお客様が増えていって」。
いいお客様がいいお客様を呼び、ゆっくりとオープンから5年をかけて軌道に乗っていきました。それまでの5年はスタッフの給料だけは確保しつつも二村さんは無給。休みも年に3~4日でしたが「好きだったから苦にならなかったです」。
接客こそ要(かなめ)
店づくりにおいて二村さんが重視しているのが接客です。
かつてホームセンターで勤めていたとき、お客様に対して植物のことを十分に説明できないまま販売することに違和感があったと言います。そこでガレージではお客様の好みや環境をきちんとヒアリングして、その人に合った植物や提案を共に考えるようにしました。
「いくらお店が素敵でも、徐々に感動が薄れていくものです。店とそこで働くスタッフと、来てくれるお客様が必要で、その3つがいい状態じゃないと継続はできないので」
レジカウンターとその奥の棚も二村さんが制作。店内ではクラフトのクラスを開催していて木やアイアンを使った家具や雑貨を制作できる。
現在、愛知県豊橋市のガレージ本店をはじめ名古屋、横浜、東京・立川の全4店舗で働くスタッフは総勢70名ほどにも増えました。その中には花業界未経験者も多くいます。
採用にあたって二村さんが一番の基準にしているのが、お店のことを好きかどうか。
実はガレージのオープンから5年目くらいまでは、その人を尊敬できるかどうかという基準で採用をしていたと言います。ただ、なかなかその基準に至る人材がおらず常に人員が少ない状態が続き、店も拡大するなかで採用基準を前述のように改めたのでした。
「お店のことを好きでいるスタッフはたとえ何かで間違えても、変な方向にいかないはずですから」。
スタッフの知識や技術は入店後に徐々に磨いていきます。定期的な植物のテストやインテリアの講習、その分野に長けているスタッフによるレクチャーなどで知識のシェアやブラッシュアップを図ったり、スタッフから「こういうことを教えて欲しい」という声があがればそれに応じて講習を開くことも。
また、定期的にミーティングを店舗ごとの全スタッフで行うことで、不明点などを共有・解決しています。さらにはさまざまなLINEのグループを作りお互いに情報を発信し合うだけでなく、そのすべてのグループに二村さんが参加。なにかあればその都度アドバイスをします。
“ガレージらしさ”は各店の店長やディレクターがしっかりと理解をしているので、彼らからもそれぞれのスタッフに伝えてもらっているそうです。
そうして離れた場所でも全員が店の個性や専門知識をしっかりと会得し、それが接客のクオリティ保持につながっています。
「最初の10年間は豊橋の店だけだったので常に自分で見られたけれど、名古屋の店ができてそれができなくなりました。でも豊橋のスタッフが育ってきて、自分がいないほうがさらに成長できるかも?と思って、名古屋を立ち上げて競争だ!という気持ちで豊橋の店を出た感じです」
とは言うものの2店舗をうまく回すのは大変でしたが、豊橋と名古屋の距離だったため、二村さんが行ったり来たりしながら時間とともにうまくいくようになってきました。
横浜、東京と関東への進出に当たっては1年ほど前から組織を作り、スタッフのポジションや仕事を明確にするようにしました。昔は一から十まで自らが確認したいと思っていましたが、今ではある程度スタッフに任せるところも作っていると言います。
結果としての多店舗展開
豊橋のガレージ本店オープンの10年後に名古屋店を、さらに横浜の三井アウトレットパーク、 2020年には立川のGREEN SPRINGSへの出店と多数の店舗を擁するまでになった二村さん。現在4店舗を有するまでになりましたが、とくに店舗数を増やそうと思っていたわけではありませんでした。
出店の声掛けは、実は結構あるそうです。しかし二村さんは「素敵なお店には何らかのストーリーがないといけないと思っていて。金太郎飴みたいに同じ店を作りたいわけではなく、この場所で、このスタッフで、理由があってこの店になっている」と信念を持っています。
たとえば東京の立川に今年オープンした店舗「Rust」(ラスト)。
二村さんが学生時代に多摩市に住んでいて立川には馴染みがあったこと、かつて浜松に店を出していたときに隣にあって仲良くしていた雑貨店の初代店長が、ラストオープン時に偶然立川近隣に住んでいて、オファーをしたところ新しいラストで働いてくれることになったこと、その初代店長は実はゆくゆくは花屋さんになりたいと思っていたこと……など、さまざまな偶然が絡み合って生まれました。
「植物はいろいろな業種とつながることができます。とくに今は植物の価値が高まっているので、その可能性を感じたい。自然な流れでストーリーが進んだときに、それがカタチになる。ここならこれだけ売れるといわれてもあまりピンときません」
二村さんの多店舗経営はビジネスというよりも、そこに至るまでの背景の結果の賜物。だからこそそれぞれに個性があり、その土地ごとのニーズにも自ずと沿うようになっているのだと感じます。
商売をするということ
「儲かっても儲からなくても同じ仕事をしていると思う」と言い切る二村さんの仕事に対するスタンスは、好きなことを仕事にしているから頑張れるというもの。
「商売を長く続けていると調子のよいときは一瞬で、辛く厳しいときは必ずある。そんなときに何が支えになるかと言えば、好きだとか、やっている意味だと思う。単に数字だけ見るんじゃなくて“そのときに頑張れる理由”を持っていた方がいいかな」。
現在、関東に進出して数カ月が経ちましたが、新しい話もいろいろ出ていてまだまだ広がりがあると感じていると言います。
これまでは自身とその周辺だけが動いているという体制だったところから、スタッフも大幅に増えたいまは「ワクワクやドキドキをなるべくスタッフにも分けたいなと、このごろ思います」と、委ねられる部分を委ね、共有できるものを共有したいと考えるようになりました。
「昔はガレージが子どもだと思っていて、子どもを大人にしなきゃ、成長させなきゃと思っていました。ガレージが段々一人歩きして行くと感じてきたこの頃は、ガレージ負けないようにしないといけないと思います。ガレージのオーナーですと胸を張って言えるように」
すべては店のために。そして、訪れる人のために。
text&photo 月刊フローリスト 撮影/岡本修治
店舗情報
garage TOYOHASHI ガレージ豊橋本店
愛知県豊橋市曙町南松原17
www.garage-garden.com
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この記事のライター
植物生活編集部
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