グリーンにはかかせない!マクラメのルーツとは?
吊るすヒモ? 海外のもの?
流行している「マクラメ」ってなんだろう
ここ数年、インテリア誌やグリーンショップで目にしたり、耳にしたりするマクラメ。
「カフェやセレクトショップで天井から下がっている、鉢を吊るすヒモ状のあれ」といえばピンとくるだろうか。
一体マクラメって何?どこの文化なの?専門家に聞いてみました。
マクラメのルーツは?
語源は、「ベール」を意味する19世紀のアラビア語「migramah(ムカラム)」に由来するといわれていますが、ヒモを装飾的に結ぶ技法全般のことを指します。グリーンを吊るすハンギングだけでなく、夏になると大活躍のかごバッグやブランドもののレザーバッグ、カジュアルなファッションにはぴったりなベルトから、ミサンガ、パワーストーンのアクセサリーなど、私たちの生活の中で一度はマクラメを目にしているのではないでしょうか。
マクラメ=結びと捉えるならば、人類が進化する過程から結びは大きな役目を担っています。狩猟や農耕、住居の建造、物の運搬など衣食住のすべてに結びは利用されてきました。道具を用いず、指先だけを使って結ぶシンプルな手わざは、いわば人類が知恵を身につけ文化生活をスタートさせるにあたり、最初に覚えた技法ではないでしょうか。
インカ帝国では、結縄文字として数字や文字を記録するために結び目が使用され、古代エジプトでは、結びに呪術的な意味まで持たせていたことが知られています。日本では縄文時代の遺跡である青森県の三内丸山遺跡から、蔓を組んだ組紐や腕輪が出土され、正倉院の中には、ヒモを結んだものが納められています。
室町時代に入ると水引が盛んに用いられるようになり、茶道の世界では花結びが発展し、その複雑な結びは、毒が盛られないよう鍵代わりにもなりました。
こうして結び目に祈りや願いを込めたり、魔除けにしたものが次第と実用性を帯び、装飾的な進化を遂げていきます。こうした変遷は、日本に限ったものではなく、世界中のどこでもそれぞれの土地で風土や文化に合った進化をし、伝えられて来ました。
大航海時代になるとこの進化した技法は、おもに船乗りによって遠方まで広められます。
彼らは時間のある時に甲板でさまざまな結び作品を作っては船の装飾にしたり、寄港地で交易に使ったり、贈り物にしたものが世界中に広がりました。
船乗りというと男性的かと思いきや、オランダではボビンレースという繊細なレース技法の土台になり、ビクトリア時代は上流社会の中で衣服の縁飾りやベッドカバーが結ばれたりしています。
マクラメという言葉もアラビア語からフランス語になり、フランス語から英語へと、世界中で通用するものになりました。
映画『綴り字のシーズン(2005年、アメリカ)』では、アメリカのスペリングコンテストで、決勝戦まで行った主人公に出された問題が「マクラメのスペルは?」というものでした。さまざまな国で使われている単語だけに、微妙に違うスペルがコンテストの問題にまでなってしまったのかと興味深い内容となっています。
小出春江『マクラメ手藝と其の應用』盛林堂:1927年
小出春江『マクラメ手藝の新しい結び方』盛林堂:1928年
河野富子『現代婦人手藝全集;第3 マクラメレース』三瀬商店出版部:1928年
日本でのブームは?
日本でも何度かブームを繰り返していますが、昭和初期には、リリアンのヒモでランプシェードを結んだり、シルクのヒモでバッグを作ったりという大きなブームがありました。アメリカでも、60年代後半ぐらいからベトナム戦争の反対運動がヒッピーカルチャーとして花開きましたが、その代表的なクラフトとしてマクラメが大人気でした。頭にヘアーバンドを巻いたり、フリンジ付きのベルトをしている姿をイメージするととわかりやすいでしょう。
近年公開された『ダーク・シャドゥ(2012年、アメリカ)』というジョニー・デップ主演の映画では、まさしく70年代のヒッピーカルチャーを象徴するものとして「マクラメルーム」というフクロウの壁飾りがたくさん下がった部屋が登場しています。
日本にも70年代後半にはDIYブームに乗って、アメリカからプラントハンガーやタペストリーなどのインテリアが入ってきて、一世を風靡します。各地でワークショップが開催され、一家に1つはプラントハンガーやドアベルがぶら下がっている……というほど人気になりました。
しかし、当時の日本の住宅事情は欧米とは異なり、海外のサイズをそのまま持ってくるだけでは受け入れられなかったり、中に飾る観葉植物の手入れも大変だったということもあり、あっという間に簡便な、プラスティック製のツル付きポットに駆逐されてしまいました。
近年になり、ようやく住宅事情も改善され、多肉植物やエアプランツのブーム、給水リボン付きポットなど手入れの面でもハンギングにはありがたいグッズの登場で、再びマクラメのプラントハンガーが注目を浴びることになったと思います。
日本で発行されている技術書と、その海外翻訳本
『いちばんよくわかる はじめてのマクラメ』日本ヴォーグ社:2012年
メルヘンアートスタジオ(編)日本マクラメ普及協会(監修)『マクラメパターンブック 結んでつくるフォークロア・デザイン』グラフィック社:2011年
『改訂版 結び大百科』ブティック社:2017年
人気のスタイルは?
最近では、インスタグラムやピンタレストに”macramé“と入れるだけで、世界中で作られているマクラメ作品を見ることが可能になりました。そこで見てみると、インテリアに関心が高い人は、BOHOスタイル(ボヘミアンとソーホーが合わさったインテリアスタイル)の中に、流木をあしらったタペストリーやドリームキャッチャー、ガラス鉢にエアプランツを入れたハンギング等を楽しむようになっています。
BOHOウェディングといわれるスタイルまで登場しており、これは、マクラメで結んだアーチ型のタペストリーを背景にボヘミアンなドレス、花冠が象徴的なウェディングのスタイルなどを指しています。
これらの世界的なマクラメのブームに貢献しているのが、日本で発行されている技術書の海外翻訳本とも思われます。丁寧に解説されたこれらの本が、さまざまな言語に翻訳され、世界各国で「ヒモさえあればどこでも誰でも結べる」という手軽さが受け入れられ、結ばれています。
マクラメはインテリア作品だけにとどまらず、アクセサリーとしても人気があります。
金属アレルギーのある人には安心な天然素材でアクセサリーを制作したり、自分のお気に入りの石をペンダントにして身に着けることができたり。
マクラメのいいところは、1つの結びを覚えるだけでも、素材を変えればさまざまなものが作れるというところです。繊細なヒモで結べばアクセサリーに、丈夫なロープで結べばハンモックに、素材次第でこんなにも幅広いジャンルのものに応用できる技法はそうはありません。
男女を問わず、子どもから年配の人にも楽しんでもらえることも大きな魅力です。「結び」には、人の潜在的な何かと繋がっていたいという本能にも近い感覚をくすぐるものがあるのかもしれません。
ぜひ、結びやすいヒモを手に入れ、マクラメの世界に足を踏み入れてください。なにかほっとする充足感を得ることができると思います。
[文]メルヘンアート株式会社
教えてくれた専門家
メルヘンアート株式会社
ヒモを専門にする手芸メーカー。縫糸販売からスタートするが、40年前よりマクラメに携わり、マクラメを伝えることは文化を伝えることだと精進する毎日。
参考文献:『マクラメパターンブック』(グラフィック社)、『結び』(額田巖著、法政大学出版)、『マクラメ結び』(インテリア出版)
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この記事のライター
植物生活編集部
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