植物生活編集部 植物生活編集部 58ヶ月前

ドイツフロリストマイスターに学ぶ「花の造形」レッスン05 植物のキャラクターとは

フロリストマイスターが教える 花の造形理論 第5回

花のプロフェッショナル=フロリストの仕事は、商品や作品の「造形材料」である植物をいかに魅力的に見せ、植物が持つ生命力やその表情を感じてもらえるようにするかにあります。

造形する側であるフロリストは、自分が扱う造形材料について熟知しているべきです。
それでも私たちと同じ、いえ、それ以前から存在する植物を知ることは、短期間でできるものではありません。

毎日の生活の中で、また仕事の最中にふと目をやった自然の風景から……。
私たちが生きている時間のすべてを使い、少しずつ知識を増やしていくものです。

フロリストは植物をどのように見て、何を感じ取るべきなのか。
お客さまの要望や自分のテーマにあった造形をするために、どのような知識が必要なのか。

まだ歴史の浅い花の造形の理論を、ドイツフロリストマイスターとして紹介する連載です。
 

レッスン 05
自然観察から植物のキャラクターを知る


今月は、植物が持つ個性・キャラクターについて考えます。キャラクターとは、それぞれの植物に見られる特徴を意味します。
人間と同じく、植物もそれぞれに個性・キャラクターを持っています。派手なタイプもあれば、大人しいものもあります。

赤いカーネーション、白いガーベラ、真紅のバラ、黄色いチューリップ、ストレリチアに白いユリ、ユーカリやドラセナなど、見慣れた植物がどんなキャラクターを持っているか、言葉にして表してみましょう。愛情、清楚、上品、子供っぽい、いかつい、純粋、クールな、落ち着いた……。

フロリストとして商品を制作するうえでは、一般的に誰もが感じるイメージを理解しておく必要があります。
「ひまわり→元気」というような。
アーティストとして作品を作り上げる際には、自分だけの見解から出たイメージをストックしておくと役立つでしょう。

自然観察の際にも、植物の様子からさまざまなイメージを受け取ることが可能です。
明るい日向にあるもの、陰の隠れたところにひっそり存在しているもの、雄大にそびえるものもあれば、小さく健気にたくさんの仲間たちと過ごす植物も存在します。

季節ごとに変化を遂げ、朝から夜への時間と共に表情を変え、私たちとどのように関わって存在しているのか。
植物のキャラクターづけには、植物が持つ色や質感だけでなく、生長の動き、生育環境やその国の文化、生活習慣への関わりなどの要素も影響してきます。

植物のキャラクターを考えながら自然を観察すれば、材料としてどう扱うべきか、どのような表現に使用することが的確なのかが見えてきます。

フロリストなら店にあるすべての植物に向き合いその性格を理解しておきましょう。花への新しい取り組み方が見えてくるかもしれません。

植物が季節によって、また朝から夜までの時の経過の中で見せる表情やその特徴。
それらを私たちが持つすべての感覚器官を使って感じ取り、イメージを理解し、ふさわしい表現をすることが、植物を使って造形するものの使命であり、面白みです。
 

色によって変わるキャラクター


同じ種類の植物でも、色の違いによってキャラクターの印象は変わってくることもあります。
写真は、ともにバラ‘ピアノ’ですが、赤は上品でエレガント、ピンクは優しくかわいらしいイメージを持ちます。


赤いバラ‘ピアノ’の持つキャラクター
上品、女性らしい、落ち着いた、ドラマチック、芸術的、信頼、印象的など



ピンクのバラ‘ピンクピアノ’の持つキャラクター
優しい、柔らかい、かわいらしい、愛くるしい、ロマンチック、ドレスのような、など



次に、2種類のバラのそれぞれのキャラクターを生かして制作した花束を紹介します。

植物のキャラクターを作品で表現する

次の二つの花束は、ともにバラ‘ピアノ’が主役ですが、赤とピンク、色によって印象の異なるキャラクターに合わせ、構成と副材料の選び方を変えています。

1は赤いバラの上品で女性らしいイメージを生かすため、流れるようなフリーセントの花束に。
材料は、ツヤのある葉物や、流れを作ることのできるエレガントなものを合わせています。

2は、副材料に温かみのある親しみやすいものを選び、コンパクトなラウンドに。ピンクのバラの持つ印象そのままに、かわいらしく優しい印象に仕上げました。

植物のキャラクターを知れば、自分が作りたいテーマや表現から材料を選択することも可能になります。
 

作例1

エレガントで豪華な流れる花束 バラ‘ピアノ’を主役に

大人っぽい赤バラのイメージに合わせて、エレガントな動きのフリーセント(流れる花束)に。材料は高低差をつけて束ね、手元に花を入れてフォーカルポイントにし、華やかな印象に作った。長くしなればしなるほど、エレガントさが強調される。

{ Flower&Green }
バラ‘ピアノ’、サマースイートピー、ベアグラス、ハラン、クリスマスローズ(葉)、ゲッケイジュ、トキワイチゴ(葉)、ニッキ(葉)、ビバーナム、アイビー(実付き)、丸葉ユーカリ、サンゴミズキ

花材選びのポイント
美しく流れる曲線を持った材料で。赤いバラの雰囲気を損ねることなく季節感や上品さを表現できるサマースイートピーや、ツヤのある葉物や実ものなど大人っぽい印象のものを中心にし、カジュアルに寄らないようにしている。
 

作例2

母の日に贈るラウンドの花束 バラ‘ピンクピアノ’を主役に 

優しくかわいらしいピンクのバラのイメージを表現するため、コンパクトなラウンド型に。中心部分は密度をつけて束ね、下は180度以上の展開を作り、コロンと丸い形に仕上げてロマンチックな印象を強調。フェミニンなお母さんに贈りたい。

{ Flower&Green }
バラ‘ピンクピアノ’、スカビオサ、ニゲラ、ブルースプレー、ライラック、グニユーカリ、ミモザ、アイビー、マメの花、スマイラックス、ローズマリー、ヒペリカム(葉)

花材選びのポイント
ぼやけた輪郭を持つソフトな印象の材料を合わせて。ピンクを引き立てる淡い色みの花に、黄色のミモザで母の日ギフトらしい明るさをプラス。ローズマリーやグニユーカリなど、お母さんに好まれそうな人気のグリーンを組み合わせ、親しみを出す。
 

今回のまとめ

植物のキャラクターとは?
・個々の植物に見られる個性的な特徴のこと。フロリストにとっては、おもに外見の印象をさす。
・植物へのキャラクターづけには、それぞれが持つ色や質感、生長の動き、生育環境やその国の文化、生活習慣への関わりなどの要素が影響する。
・自然の中や店の植物を丁寧に観察、分析することで、キャラクターへの理解は深まる。
・植物のキャラクターを理解すれば、それぞれの植物にふさわしい造形表現の幅が広がる。

写真/中島清一 月刊フローリスト

講師
橋口 学 
Manabu Hashiguchi
ドイツ国家認定フロリストマイスター。1997年渡独。国立花き芸術専門学校ヴァイエンシュテファン卒業後にミュンヘンの花店に勤務し、およそ9年間のドイツ滞在を経て帰国。現在は神奈川県秦野市にて「花屋ハシグチアレンジメンツ」を主宰。 植物造形理論・実技レッスンを行っている。
http://www.h-arrangements.com

 

橋口さんのドイツフロリストマイスター理論がわかるリースの制作法
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