Botanical TRIP 私の好きな、地元のこと。#04
アーティストがインスピレーションをうける場所。
海外、街、自然、いろんなものごとに刺激を得ながら
創作を形にしていく過程。
その源を探る旅に出てみます。
フラワーアーティストが「自分を作り上げた、地元」をたどる旅。
その名も「ボタニカル・トリップ」
まずは、静岡県出身のフラワーアーティスト
後藤清也さんに地元を旅してもらいます。
Botanical TRIP vol.4
日本一の茶どころ静岡県。
前編は400年の茶文化を誇る茶町のその味わいを、感じる旅でした。
前編はこちら▶︎「製茶問屋 白形傳四郎商店」<前編>
今回は、名人と呼ばれる生産者に会いに行きます。

眩しいくらいの緑が視界を埋めていく中、到着したのは、『森内茶農園』さんです。
山の遥かてっぺんの方に見える森内名人を目指し、急傾斜の茶畑を登ります。

「おにぎり食べたい、お茶といっしょに」後藤さんの心の声が聞こえてくるようです。茶畑を歩く心地よさは、ピクニック気分。

険しい斜面でも軽快な足取りの後藤さん。初々しい生葉を一つ摘まみ、パクリと口へ。
ようやく森内名人のもとへたどり着きました。
ぐるりと見える、広範囲に渡る森内名人の茶畑は、20代の後半、結婚した時に購入したものだそうです。

今年のお茶は、史上稀に見る摘採時期の早さでした。
4月5日。この日は「清明の日」と呼ばれ、中国では清明の日よりも前に摘んだお茶は「明前茶」(めいぜんちゃ)といい超高級茶として献上されるのだとか。
一度はこの日に摘んでみたいと奥様とも話していたという名人。
今年まさかの現実になりました。ちょうどよいタイミングで摘採適期が訪れたのです。

後藤さん、茶摘みの作業について気になることが。茶摘みって、手で摘むんですか?「手と機械と両方で摘んでいます。お茶摘娘さんの手摘みを見ることもできます」
霜の被害も心配されますが、防霜ファンがしっかりと入っていれば、経済的な被害は無く、品質的にも問題ないとのことです。
この地域(内牧)は、気流(冷気)が停滞しやすい場所です。
よその地域では無くても、ここでは霜の被害を受けてしまうということもあります。
冷気が停滞しやすい平場は十年一作(十年で一回しかまともに取れることがない)ともいわれるため、森内名人はこのような急傾斜の地を選んでいるのです。

急斜面の方が、日光が全体的に当たり、栄養成分も満遍なく渡ります。
また山風が斜面を下ると、天然の防霜ファンのようになります。
つまりここは、寒暖の差、風の流れ、また水はけも良く、お茶にはいい条件が揃っている場所なのです。

このプロペラは?茶畑の中にいくつか立っているプロペラが気になる後藤さん。
そう、これぞ防霜ファンです。
センサーにより、株面は温度3度に設定されています。
空気を攪拌し、温風を株面に吹き付けているのです。
この防霜ファンができたことで、ようやく経営が安定したといいます。
森内茶農園さんには海外の観光客もたくさん訪れますが、特にヨーロッパの方がそれらを好むそうです。
逆にアジアの方は香り重視なので、旨みがあまり強くない方がいいとのことです。

「何種類くらい植わっているんですか」後藤さん、果てしなく広い茶畑を見渡しながら。
名人から品種の名前が次々と出てきます。「これはやぶきた、あれは摩利支、山の息吹、さえみどり…」
今まで日本の緑茶には選択肢がなかったと話す名人。
お茶の違いや楽しさをわかってもらえず歯がゆい気持ちだったといいます。
できるだけシングルオリジン(一種類)で味わってもらい、凝ってくれば自分でブレンドする楽しみも覚えてもらえたらいいと思っているそうです。
森内名人はイベントに参加することも多く、その中で、若い人たちがお茶に興味を持ってくれているのを実感しているといいます。
ペットボトルのお茶しか知らなかった若い世代が、ある日お茶と出会い、そこにこだわりを持つようになってくれるとうれしいと語ってくれました。
森内茶農園さんには、カフェがあります。
農家のカフェ『土間カフェ』。

ここは、いろんな品種のお茶を飲み比べたり、問屋の工場見学や茶畑見学など、お茶に特化したツアーなどの段取りもしてくれます。
とても人気で、海外からのお客様も多くいます。
飲み方のさまざまな提案をし、お茶ってこんなにおもしろい、選ぶのが楽しい、そう感じてもらえることが森内夫妻の喜びなのだそうです。

後藤さん、一口飲んで、フレーバーに驚きました。
これは、おいしい。これは、いい。
何度も何度も。とても気に入ったようですね。
水出しの、ミント入り緑茶。
ご自身のカフェメニューにも何か閃いた表情です。
若い世代にもお茶の楽しみ方を知ってもらいたい。
そんな名人たちの思いは、とても味わい深いものでした。
土間カフェでいただいたミント香るお茶のように。
今後後藤さんが、その魅力を発信する良き伝道師になりそうな、そんな予感がします。
今回の、お茶を巡る旅をエスコートしてくれたのは、茶町の製茶問屋 白形傳四郎商店さんでした。

ここで、90余年の歴史を刻む白形傳四郎商店さんのストーリーを聞いてみました。
おいしい新茶をいただきながら。
製茶問屋である白形傳四郎商店さんの事業形態は、通信販売、輸出、卸売り、小売りの4つで、日本、世界へお茶を届けています。
平成12年にはアメリカのカリフォルニア州に会社を設立。
Den’s Tea, Inc. (デンズティー)。
3代目の現社長が、アメリカでお茶を広げています。
創業は大正12年。
社名ともなっている白形傳四郎氏による京都でのお茶の行商に始まりました。
創業後、大阪や東京でも行商を行いましたが、お茶を扱うなら茶どころ静岡だろうということで、静岡にやって来ました。
当時お茶は専門店に卸すのが一般的な流れでしたが、傳四郎氏は、お茶を担ぎ行商で個人向けに売り出したのです。
手紙でメニューのようなもののやり取りをし、注文をもらい、産地直送の小包で個人宛に送っていたそうな。
まさに現在の白形傳四郎商店さんの通信販売事業の先駆けでした。
白形傳四郎商店さんの歩みに耳を傾けながら、新茶と和菓子をゆっくりと楽しみます。
「お茶って、苦いほどいいのかと思っていました」
お茶の旅で、後藤さんがこれまで抱いていたお茶のイメージも変わったようですね。
『茶の実油』GOLD TEA OIL。

茶畑の美しい景観を守りたい。
その思いに端を発し、数年に渡る調査や研究実験を経て誕生したのが『茶の実油』です。
お茶の実から搾油した100%静岡県産の食用オイル。
その栄養価が高いことにも関心が持たれています。
健康に美容に、未知の可能性を秘めた黄金のオイルです。
茶業界の将来と、我々の未来。透き通る美しいオイルに、その輪郭が映し出されそうな気がします。
お茶を巡る旅。後藤さん、静岡茶をめいっぱい満喫し、その豊かな感受性は新たな刺激を受けたようです。

お茶の味わい方が、今までとはきっと違うはずですね。
撮影/岡本修治
旅した人
後藤清也 goto seiya
静岡県伊豆河津町出身。幼少期より自然や花に触れ、植物の魅力に惹かれていく。東京・恵比寿のウェディング会社にてパーティ装飾や空間装飾を行う。退社後は芸能活動などを経て2012年にSEIYA Designを設立。国内外にて活動中。

海外、街、自然、いろんなものごとに刺激を得ながら
創作を形にしていく過程。
その源を探る旅に出てみます。
フラワーアーティストが「自分を作り上げた、地元」をたどる旅。
その名も「ボタニカル・トリップ」
まずは、静岡県出身のフラワーアーティスト
後藤清也さんに地元を旅してもらいます。
Botanical TRIP vol.4
04/静岡県「製茶問屋 白形傳四郎商店」<後編>
日本一の茶どころ静岡県。
前編は400年の茶文化を誇る茶町のその味わいを、感じる旅でした。
前編はこちら▶︎「製茶問屋 白形傳四郎商店」<前編>
今回は、名人と呼ばれる生産者に会いに行きます。
急斜面の茶畑 森内茶農園
白形傳四郎商店さんから車で15分ほど。眩しいくらいの緑が視界を埋めていく中、到着したのは、『森内茶農園』さんです。
山の遥かてっぺんの方に見える森内名人を目指し、急傾斜の茶畑を登ります。
「おにぎり食べたい、お茶といっしょに」後藤さんの心の声が聞こえてくるようです。茶畑を歩く心地よさは、ピクニック気分。
険しい斜面でも軽快な足取りの後藤さん。初々しい生葉を一つ摘まみ、パクリと口へ。
ようやく森内名人のもとへたどり着きました。
ぐるりと見える、広範囲に渡る森内名人の茶畑は、20代の後半、結婚した時に購入したものだそうです。
今年のお茶は、史上稀に見る摘採時期の早さでした。
4月5日。この日は「清明の日」と呼ばれ、中国では清明の日よりも前に摘んだお茶は「明前茶」(めいぜんちゃ)といい超高級茶として献上されるのだとか。
一度はこの日に摘んでみたいと奥様とも話していたという名人。
今年まさかの現実になりました。ちょうどよいタイミングで摘採適期が訪れたのです。
後藤さん、茶摘みの作業について気になることが。茶摘みって、手で摘むんですか?「手と機械と両方で摘んでいます。お茶摘娘さんの手摘みを見ることもできます」
霜の被害も心配されますが、防霜ファンがしっかりと入っていれば、経済的な被害は無く、品質的にも問題ないとのことです。
この地域(内牧)は、気流(冷気)が停滞しやすい場所です。
よその地域では無くても、ここでは霜の被害を受けてしまうということもあります。
冷気が停滞しやすい平場は十年一作(十年で一回しかまともに取れることがない)ともいわれるため、森内名人はこのような急傾斜の地を選んでいるのです。
急斜面の方が、日光が全体的に当たり、栄養成分も満遍なく渡ります。
また山風が斜面を下ると、天然の防霜ファンのようになります。
つまりここは、寒暖の差、風の流れ、また水はけも良く、お茶にはいい条件が揃っている場所なのです。
このプロペラは?茶畑の中にいくつか立っているプロペラが気になる後藤さん。
そう、これぞ防霜ファンです。
センサーにより、株面は温度3度に設定されています。
空気を攪拌し、温風を株面に吹き付けているのです。
この防霜ファンができたことで、ようやく経営が安定したといいます。
お茶の楽しみ方と若い世代への思い
蒼風という品種は、マスカットフレーバーのようだといいます。森内茶農園さんには海外の観光客もたくさん訪れますが、特にヨーロッパの方がそれらを好むそうです。
逆にアジアの方は香り重視なので、旨みがあまり強くない方がいいとのことです。
「何種類くらい植わっているんですか」後藤さん、果てしなく広い茶畑を見渡しながら。
名人から品種の名前が次々と出てきます。「これはやぶきた、あれは摩利支、山の息吹、さえみどり…」
今まで日本の緑茶には選択肢がなかったと話す名人。
お茶の違いや楽しさをわかってもらえず歯がゆい気持ちだったといいます。
できるだけシングルオリジン(一種類)で味わってもらい、凝ってくれば自分でブレンドする楽しみも覚えてもらえたらいいと思っているそうです。
森内名人はイベントに参加することも多く、その中で、若い人たちがお茶に興味を持ってくれているのを実感しているといいます。
ペットボトルのお茶しか知らなかった若い世代が、ある日お茶と出会い、そこにこだわりを持つようになってくれるとうれしいと語ってくれました。
土間カフェ
森内茶農園さんには、カフェがあります。農家のカフェ『土間カフェ』。
ここは、いろんな品種のお茶を飲み比べたり、問屋の工場見学や茶畑見学など、お茶に特化したツアーなどの段取りもしてくれます。
とても人気で、海外からのお客様も多くいます。
飲み方のさまざまな提案をし、お茶ってこんなにおもしろい、選ぶのが楽しい、そう感じてもらえることが森内夫妻の喜びなのだそうです。
後藤さん、一口飲んで、フレーバーに驚きました。
これは、おいしい。これは、いい。
何度も何度も。とても気に入ったようですね。
水出しの、ミント入り緑茶。
ご自身のカフェメニューにも何か閃いた表情です。
若い世代にもお茶の楽しみ方を知ってもらいたい。
そんな名人たちの思いは、とても味わい深いものでした。
土間カフェでいただいたミント香るお茶のように。
今後後藤さんが、その魅力を発信する良き伝道師になりそうな、そんな予感がします。
行商からの歩み 白形傳四郎商店
今回の、お茶を巡る旅をエスコートしてくれたのは、茶町の製茶問屋 白形傳四郎商店さんでした。ここで、90余年の歴史を刻む白形傳四郎商店さんのストーリーを聞いてみました。
おいしい新茶をいただきながら。
製茶問屋である白形傳四郎商店さんの事業形態は、通信販売、輸出、卸売り、小売りの4つで、日本、世界へお茶を届けています。
平成12年にはアメリカのカリフォルニア州に会社を設立。
Den’s Tea, Inc. (デンズティー)。
3代目の現社長が、アメリカでお茶を広げています。
創業は大正12年。
社名ともなっている白形傳四郎氏による京都でのお茶の行商に始まりました。
創業後、大阪や東京でも行商を行いましたが、お茶を扱うなら茶どころ静岡だろうということで、静岡にやって来ました。
当時お茶は専門店に卸すのが一般的な流れでしたが、傳四郎氏は、お茶を担ぎ行商で個人向けに売り出したのです。
手紙でメニューのようなもののやり取りをし、注文をもらい、産地直送の小包で個人宛に送っていたそうな。
まさに現在の白形傳四郎商店さんの通信販売事業の先駆けでした。
白形傳四郎商店さんの歩みに耳を傾けながら、新茶と和菓子をゆっくりと楽しみます。
「お茶って、苦いほどいいのかと思っていました」
お茶の旅で、後藤さんがこれまで抱いていたお茶のイメージも変わったようですね。
『茶の実油』の誕生
白形傳四郎商店さんといえば、欠かせないのが茶の実のお話です。『茶の実油』GOLD TEA OIL。
茶畑の美しい景観を守りたい。
その思いに端を発し、数年に渡る調査や研究実験を経て誕生したのが『茶の実油』です。
お茶の実から搾油した100%静岡県産の食用オイル。
その栄養価が高いことにも関心が持たれています。
健康に美容に、未知の可能性を秘めた黄金のオイルです。
茶業界の将来と、我々の未来。透き通る美しいオイルに、その輪郭が映し出されそうな気がします。
お茶を巡る旅。後藤さん、静岡茶をめいっぱい満喫し、その豊かな感受性は新たな刺激を受けたようです。
お茶の味わい方が、今までとはきっと違うはずですね。
撮影/岡本修治
旅した人
後藤清也 goto seiya
静岡県伊豆河津町出身。幼少期より自然や花に触れ、植物の魅力に惹かれていく。東京・恵比寿のウェディング会社にてパーティ装飾や空間装飾を行う。退社後は芸能活動などを経て2012年にSEIYA Designを設立。国内外にて活動中。
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この記事のライター
植物生活編集部
「植物生活」とは花や植物を中心とした情報をお届けするメディアです。 「NOTHING BUT FLOWERS」をコンセプトに専門的な花や植物の育てかた、飾り方、フラワーアート情報、園芸情報、アレンジメント、おすすめ花屋さん情報などを発信します。