Botanical TRIP 私の好きな、地元のこと。#06 滋賀 発酵旅編
海外、街、自然、いろんなものごとに刺激を得ながら
創作を形にしていく過程。
その源を探る旅に出てみます。
その名も「ボタニカル・トリップ」
今回は、植物生活発酵部でもおなじみの
田中菜月さんに旅してもらいます。
Botanical TRIP vol.6

食に時間をかけて、からだを整えていく。
時間をかけてつくったものを食べていく。
すぐに何かが出てこないとイライラしてしまうような現代社会で、
このような言葉を聞くだけで、ありがたさすら感じてしまいます。
気づけば昔は普通だったことが、いまでは珍しくなってしまう。
そういった埋もれてしまう「あたりまえのよさ」を発見する旅。
植物生活の「Botanical TRIP」は、そんな文化に触れる旅でもあります。

最近、植物生活は「発酵」に注目するようになりました。
それは、発酵という仕組みが、現代に求められているように感じているからです。
すでに存在する菌を、おさえるのではなく「ともに生きる」共生を目指す現象。
菌によっておいしくしていく、体を良くしていく、発酵。
哲学的ですら感じられる、自然がもたらすシステムであるように思います。
日本には、その土地に根ざした発酵食品がたくさんあります。
いまとなっては幻となりつつある発酵食品が存在するのです。
幻の漬物を求めて、発酵活動家の田中菜月さんが訪れたのは
滋賀県高島市の畑(はた)にある棚田。

ここは、「日本の棚田百選」にも選ばれていて、秋には黄金色の稲穂が美しく実り世界中から多くの外国人観光客も訪れています。

菜月さんはここへ「畑漬(はたづけ)」と呼ばれる漬物を求めて訪れました。

お会いしたのは、澤井君子さん。
「天空の棚田」とも呼ばれる、急峻な傾斜地に棚田を作っているこの地域では、
どの家庭でも作られていた畑漬ですが、作り手がほぼいなくなってきているのが現状です。
発酵が強いためか、商品にしようとしてもなかなかできず、
幻となりつつあるのはそういったことからだそう。

澤井さんの家はなんだか以前にも来たことがあるような…
訪れるのが初めてとは思えない、昔ながらの空間。
ご自身で育てた野菜を刻み、仕込んでくれた「畑漬」。
ここでしか食べられない、「今」しか味わうことのできないものをいただくのは最高の贅沢です。
「畑漬」は、初夏から3月ごろまで漬けることができます。
夏の「畑漬」と、秋、冬とは全く異なるそう。

さて、「漬物専用小屋」にまいりました。
この小屋があるからこそ、漬物は一層美味しくなるのです。
菜月さんの発酵ワークショップでも、参加者のみなさんで同じ素材を使って味噌を作りますが、その人の手についている菌、家にいる存在する菌や温度で味はまるで変わってくるのが「発酵」。
この小屋にいる常在菌、季節ごとに自然が運んでくれる菌。温度の変化。それによって味がかわってくるのです。

赤しそ、唐辛子が入った「畑漬」はほかでは味わうことのない
ピリッと刺激があるのにとても優しい漬物で、
野菜の水分だけで樽に漬け込んでいるのです。
乳酸菌の酸味とピリリが絶妙!



夏の「畑漬」は茄子を漬け込んだりするので色が少し濃いのですが
冬には、赤かぶと大根を漬け込むので、ほんのりピンクの可愛らしい姿に変化します。
季節の変化を楽しむことが、体にとっても一番いい食事なのです。

ここで採れたお米を作って、おにぎりをパクリ。

澤井さんの家はなんと、棚田のてっぺん。
そこにたどり着く間までには、地元の人が営んでいる
陶器のギャラリー、糸から染色した洋服のお店があったり。




美しい畔を歩いていくと、きれいな水が流れています。


澤井さんの家にも井戸水が溢れていて
ここには鯉がいて、もう60歳になるのだとか。
夏にはスイカや野菜を冷やしています。
この土地でしかできない、特別なもので溢れています。

笑顔のかわいらしい澤井さんはつぶやきました。
「何にもないところなのに、喜んでくれて嬉しい」
何にもないのではなく、あるべきものがそこにあるように感じた菜月さんでした。

現代は、どこにいても、なんでも手に入るような気がしてしまいます。
けれども、やはり、その土地でしか体験できないもの、時間が育んできたほかにはないものというものが、たくさん存在します。
豊かに生きるための貴重なものが、まだ確かにあると、「発酵」が感じさせてくれたBotanical TRIPでした。

撮影/高見尊裕 取材時7月
旅した人
田中菜月
発酵活動家。俳優・モデルとして活動しながら、2012年、ファスティングマイスターと発酵マイスターの資格を取得。 発酵食のワークショップ「Natsuki’s HaCcOoo Lab」主宰。味噌・ローズマリー納豆・ オーガニックキムチ・豆乳ヨーグルト・ノンシュガー酵素シロップなど、多彩な発酵食の作り方と 魅力を伝えている。CALPIS・LEXUSなどの企業とのコラボレーションや発酵食レストランの監修も行う。
http://beautyflow.sunnyday.jp/
Instagram @natsuki_haccooo

菜月さんの発酵レッスンは植物生活でも開催しています。
詳しくはこちらから▶︎ みんなで寒仕込み!スタイリッシュな常滑の甕で最高のお味噌作り
こちらの記事もおすすめ
>>Botanical TRIP 私の好きな、地元のこと。#01
>>Botanical TRIP 私の好きな、地元のこと。#02
>>草木をめぐる仕事〈第3回・前編〉萩尾エリ子さん──ハーバリスト
植物生活公式LINE@での情報更新中!
創作を形にしていく過程。
その源を探る旅に出てみます。
その名も「ボタニカル・トリップ」
今回は、植物生活発酵部でもおなじみの
田中菜月さんに旅してもらいます。
Botanical TRIP vol.6
滋賀県高島市「幻の畑漬」
食に時間をかけて、からだを整えていく。
時間をかけてつくったものを食べていく。
すぐに何かが出てこないとイライラしてしまうような現代社会で、
このような言葉を聞くだけで、ありがたさすら感じてしまいます。
気づけば昔は普通だったことが、いまでは珍しくなってしまう。
そういった埋もれてしまう「あたりまえのよさ」を発見する旅。
植物生活の「Botanical TRIP」は、そんな文化に触れる旅でもあります。
最近、植物生活は「発酵」に注目するようになりました。
それは、発酵という仕組みが、現代に求められているように感じているからです。
すでに存在する菌を、おさえるのではなく「ともに生きる」共生を目指す現象。
菌によっておいしくしていく、体を良くしていく、発酵。
哲学的ですら感じられる、自然がもたらすシステムであるように思います。
日本には、その土地に根ざした発酵食品がたくさんあります。
いまとなっては幻となりつつある発酵食品が存在するのです。
幻の漬物を求めて、発酵活動家の田中菜月さんが訪れたのは
滋賀県高島市の畑(はた)にある棚田。
ここは、「日本の棚田百選」にも選ばれていて、秋には黄金色の稲穂が美しく実り世界中から多くの外国人観光客も訪れています。
菜月さんはここへ「畑漬(はたづけ)」と呼ばれる漬物を求めて訪れました。
お会いしたのは、澤井君子さん。
「天空の棚田」とも呼ばれる、急峻な傾斜地に棚田を作っているこの地域では、
どの家庭でも作られていた畑漬ですが、作り手がほぼいなくなってきているのが現状です。
発酵が強いためか、商品にしようとしてもなかなかできず、
幻となりつつあるのはそういったことからだそう。
澤井さんの家はなんだか以前にも来たことがあるような…
訪れるのが初めてとは思えない、昔ながらの空間。
ご自身で育てた野菜を刻み、仕込んでくれた「畑漬」。
ここでしか食べられない、「今」しか味わうことのできないものをいただくのは最高の贅沢です。
「畑漬」は、初夏から3月ごろまで漬けることができます。
夏の「畑漬」と、秋、冬とは全く異なるそう。
さて、「漬物専用小屋」にまいりました。
この小屋があるからこそ、漬物は一層美味しくなるのです。
菜月さんの発酵ワークショップでも、参加者のみなさんで同じ素材を使って味噌を作りますが、その人の手についている菌、家にいる存在する菌や温度で味はまるで変わってくるのが「発酵」。
この小屋にいる常在菌、季節ごとに自然が運んでくれる菌。温度の変化。それによって味がかわってくるのです。
赤しそ、唐辛子が入った「畑漬」はほかでは味わうことのない
ピリッと刺激があるのにとても優しい漬物で、
野菜の水分だけで樽に漬け込んでいるのです。
乳酸菌の酸味とピリリが絶妙!
夏の「畑漬」は茄子を漬け込んだりするので色が少し濃いのですが
冬には、赤かぶと大根を漬け込むので、ほんのりピンクの可愛らしい姿に変化します。
季節の変化を楽しむことが、体にとっても一番いい食事なのです。
ここで採れたお米を作って、おにぎりをパクリ。
澤井さんの家はなんと、棚田のてっぺん。
そこにたどり着く間までには、地元の人が営んでいる
陶器のギャラリー、糸から染色した洋服のお店があったり。
美しい畔を歩いていくと、きれいな水が流れています。
澤井さんの家にも井戸水が溢れていて
ここには鯉がいて、もう60歳になるのだとか。
夏にはスイカや野菜を冷やしています。
この土地でしかできない、特別なもので溢れています。
笑顔のかわいらしい澤井さんはつぶやきました。
「何にもないところなのに、喜んでくれて嬉しい」
何にもないのではなく、あるべきものがそこにあるように感じた菜月さんでした。
現代は、どこにいても、なんでも手に入るような気がしてしまいます。
けれども、やはり、その土地でしか体験できないもの、時間が育んできたほかにはないものというものが、たくさん存在します。
豊かに生きるための貴重なものが、まだ確かにあると、「発酵」が感じさせてくれたBotanical TRIPでした。
撮影/高見尊裕 取材時7月
旅した人
田中菜月
発酵活動家。俳優・モデルとして活動しながら、2012年、ファスティングマイスターと発酵マイスターの資格を取得。 発酵食のワークショップ「Natsuki’s HaCcOoo Lab」主宰。味噌・ローズマリー納豆・ オーガニックキムチ・豆乳ヨーグルト・ノンシュガー酵素シロップなど、多彩な発酵食の作り方と 魅力を伝えている。CALPIS・LEXUSなどの企業とのコラボレーションや発酵食レストランの監修も行う。
http://beautyflow.sunnyday.jp/
Instagram @natsuki_haccooo
菜月さんの発酵レッスンは植物生活でも開催しています。
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この記事のライター
植物生活編集部
「植物生活」とは花や植物を中心とした情報をお届けするメディアです。 「NOTHING BUT FLOWERS」をコンセプトに専門的な花や植物の育てかた、飾り方、フラワーアート情報、園芸情報、アレンジメント、おすすめ花屋さん情報などを発信します。