植物生活なあの人 vol.6 新井順子/フローリスト
街やそこに暮らす人々に、寄り添った花屋でありたいー。
東京・世田谷区内にある人気フラワーショップ「Fleuriste PETIT à PETIT(フローリスト プチタプチ)」と「Une petite fleur Violette par prtit à petit(ヴィオレット)」には、オーナーである新井順子さんの、そんな思いが込められています。
新井さんが草花の世界に入ったのは、自身が高校生だった18歳の頃のこと。
“たまたまきっかけがあって、入っただけ”と語りますが、現在にいたるまでには、紆余曲折があったようです。
これまでのエピソードを語っていただくとともに、新井さんの人となりに迫ります。

“花を1本だけ”でもいい。デイリーに草花を楽しんで
よく晴れた土曜日の午後、世田谷区桜新町にある「Une petite fleur Violette par prtit à petit」を訪ねました。「Une petite fleur Violette par prtit à petit」は、「Fleuriste PETIT à PETIT」の姉妹店で、2018年5月にオープンしたばかりの新店舗。
フラワーレッスンに加え、月に1度ほどのペースで、洋菓子店や若手アーティストがジョイントしたイベントが開催されていることが特徴です。
また、花に加え、選りすぐりのアンティークも販売されています。
この日は、クッキーやグラノーラといった焼き菓子を扱う洋菓子店「OYATSUYA SUN」とのコラボイベントの開催日。
美しい花とこだわりのスイーツを目当てに、若い女性を中心とする人々が、ひっきりなしにお店にやってきます。
そんな状況を前にしても、新井さんはいたって冷静です。
「イベントやレッスンの開催日は特に、遠方から多くの方がいらっしゃいますが、うちは“街の花屋”です。地域に根ざした、気軽に利用できる花屋でありたいと思っています」
イベント、レッスンともに、いつも盛況のうちに終わるものの、お店や自身のスタンスへの考えは揺るがないよう。
「記念日のためにブーケを購入してくださる方はもちろん、自宅で1輪ざしにしようと、花を1本買ってくださる方も本当に大切なんです」

渡仏をきっかけに、一流フローリストの道へ
新井さんは、まるで太陽のような明るい雰囲気をまとった女性。
その言葉や表情から、あふれんばかりのエネルギーとひたむきさを感じます。
エネルギーと情熱を注いだ花の世界で、新井さんは確実にステップアップを重ねてきましたが、“花をはじめたのは、本当に偶然だった”と当時を振り返ります。
「推薦入試で真っ先に志望の短大に合格してしまったので、クラスメートよりもずっと早く受験が終わってしまったんですね。一人で時間を持て余していたとき、たまたま近所にある花屋さんで、短期アルバイトを募集していることを知って」
暇を持て余しているよりは、と申し込んだところ、即採用が決定。
気軽に働き始めたそうですが、初めての花屋での仕事は“意外なほど楽しかった”と話します。
「まず、目の前で花が売れていくという、“ライブ感”に夢中になりましたね。お客さんとコミュニケーションを取れば取るほど、お花が売れるというのも大きな発見でした」
先輩フローリストたちの技術にも魅了され、花やフラワーデザインに興味を持ったそう。
短大卒業後は、横浜市内にあった花屋に就職し、草花の世界に身を投じます。
それからは、植物や来店客と向き合う日々。
手がけたフラワーデザインを喜ぶ姿が見られることや技術と知識がだんだんと身についていくことに、やりがいを感じていました。
そんなある時、思いがけない転機が訪れます。
「当時付き合っていた彼がフランスに留学していたのですが、彼から“スタージュ(インターンシップ)としてフランスで働いたら?”と誘われたんです。現地のフローリストからスタージュ制度の存在を教わり、“彼女もフランスに呼んじゃえばいいのに”と、言われたそうで。フランスの花屋で働くだなんて全く思いつきもしないことでしたが、誘われるまま、フランスに渡りました」
こだわり抜かれたフラワーデザインに、揺るがないプライドと自信を身につけたフローリスト、そして“生活の一部”として花を楽しむフランスの人々。
その全てが日本にいる限り、知る由もないものだったそうです。
「プライドが高く、自分が作るものに妥協しない。そんなフローリストたちの姿には本当に感化されましたね。記念日だけでなく、日常の楽しみとして花に親しむフランス人のライフスタイルも素敵だな、と」
帰国後は、さらに腕に磨きをかけるべく、一流ホテルで婚礼装花や宴会装飾を施す職につきます。
婚礼装花に特化したフラワーショップの店長に就任し、新しい婚礼スタイルを提案するなど、目覚ましい活躍を見せますが、来店客とコミュニケーションをとりながら花を売る日々が恋しく、再び街の花屋へ。
そして2006年11月に独立し、移動式花屋「Fleuriste PETIT à PETIT」をオープンさせました。
“PETIT à PETIT”は、フランス語で“ほんのちょっとだけ”を意味する言葉。
花に加えてアンティークや雑貨といった、生活に彩りを添える品々が少しずつ販売されています。
フランスの人々の暮らしをお手本にした、豊かなライフスタイルを提案するお店です。
移動式花屋から移行し、駒沢の住宅街に店舗を設けてから、およそ6年。
年月の経過とともに地域の人々との繋がりも、深くなりつつあります。
「ベビーカーに乗っていた赤ちゃんが、6年経つとすっかり大きくなってお店にやってくる。街で花屋をやっていると、そうした近所の子どもの成長も、垣間見れるんですよね。花を売るのとはまた異なる、楽しみが増えてきました」
現在では、食卓に飾る一輪ざしを求め、気軽に来店する人も多くいるそう。
思いがけず渡ったフランスで憧れた、フローリストの在り方。
紆余曲折を経た今、それらは新井さんの目の前で、現実のものとなっていました。
取材・写真/緒方佳子
話をうかがった人
新井順子
Une petite fleur Violette par prtit à petit
Fleuriste PETIT à PETIT
http://petit-fleuriste.com
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この記事のライター
植物生活編集部
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