日本人の植物に対する熱は、江戸時代からすごかった。
元祖!?プラントハンターをご存知ですか。
最近の「珍奇植物」の流行によって、その活動を様々なメディアで見ることが多くなった「プラントハンター」。
現代のプラントハンターは、珍しい種の植物を紹介するだけでなく、人々に植物のある空間を提案し、そうした楽しみをプロデュースすることにも一役買っています。
しかし、このプラントハンターという人は、もともと17世紀から20世紀中期にかけてヨーロッパで活躍した、食料・香料・薬・繊維等に利用される有用植物や、観賞用植物の新種を求め世界中を探索する人のことを指しています。
当時、イギリスやオランダなどの国では、キューガーデンなどの公的機関や、ヴィーチ商会などの民間企業がしのぎを削りプラントハンターを日本も含むアジアや中南米まで派遣したことが記録されています。
ペリーが黒船で来日した際にも、プラントハンターが2名同船し、日本での植物採集を行ったそうです。
専業のプラントハンター以外にもチャールズ・ダーウィンのように調査航海に同行した生物学者や船医が現地で植物を収集することもあったため、プラントハンターという言葉が指す仕事は、かなり広範囲であったと考えられます。
『種の起源』チャールズ・ダーウィン
歴史的には、セイヨウトチノキやチューリップのような植物はオリエントからヨーロッパにもたらされ、オランダ・アムステルダムでは16世紀中ごろにチューリップ・バブルも発生した原因にもなっています。
日本について記録を残した、ロバート・フォーチュン
日本に訪れたプラントハンターとして有名なのは、英国東インド会社の代表として世界を巡ったロバートフォーチュンがいます。
ロバート・フォーチュン(1882-1880)
1848年から3年間インドに旅行し、ダージリン地方への20,000株のチャノキ苗の導入に成功し、重要な成果をあげ、彼の努力によってインドとセイロンの茶産業が成長したと記録されています。
彼は鎖国をしていた日本に来て、その園芸文化に驚きました。
なぜならば、サボテンやアロエという中国でも知られていなものが、すでに日本で鑑賞されていたり、イギリス産のイチゴが売られていたという事実に驚いたのです。
のちに彼は著作『幕末日本探訪記―江戸と北京』の中で、日本について、こう述べています。
「日本人の国民性の著しい特色は、庶民でも生来の花好きであることだ。
花を愛する国民性が、人間の文化的レベルの高さを証明する物であるとすれば、日本の庶民は我が国の庶民と比べると、ずっと勝っているとみえる。」
有名な言葉ですね。
江戸時代、本当にそんな時代だったのか?
あきらかにサボテンらしきものが後ろにある [植木売りと役者 歌川国房 たばこと塩の博物館蔵 (転載禁)]
江戸時代の人々は花や草木で四季の移ろいを楽しんでおり、植木鉢の登場で広まった鉢植は、人々の生活を描いた浮世絵にしばしば登場するなど身近な存在でありました。
「浮世絵」は当時人気の「エンターテインメント・メディア」とでもいえるでしょうか。
それゆえ、今当時の人が熱心に見ていた世界を、その絵からうかがい知ることができます。
そこには、家で育てて楽しむためのものに加え、変種や造菊など見世物として評判を呼んだものも描かれています。
植物を愛でる当時の人々の姿と、現代の私たちはそう変わらないことが良くわかります。
それが可笑しかったり、不思議だったり。
しかし、それまでは花を見る文化は上流階級の行楽だったそう。
ではどのように庶民の間に広まったのか、一部ご紹介します。
園芸が広まったきっかけ
今日ではすっかり春の風物詩として定着している花見ですが、以前は庶民にはほど遠い、上流階級のための行楽でした。8代将軍吉宗の時代に幕府の施策により、桜を中心とした花見の名所が江戸のあちこちに登場したのをきっかけに、庶民も気軽に楽しむようになっていきます。
やがて江戸後期には花名所ガイドブックも出版され、四季折々の花を観賞することが年中行事として考えられるようになっていきました。
さらに18世紀半ばになると、その楽しみは鉢植えという形で取り込まれ、庭を持たない多くの江戸庶民でも身近な園芸を楽しめるようになりました。
人々が鉢植を選んでいる様子。福寿草が欲しいのか、イケメンを見ているのか [風俗東之錦 鳥居清長 個人蔵]
園芸を趣味とする人々の中には歌舞伎役者もいました。
東海道四谷怪談など怪談ものの名手として知られる三代目尾上菊五郎は、庭に植木棚や現在の温室にあたる室(むろ)を備え、多様な植物を育てました。
一方、歌舞伎の舞台では、植木売りという役柄が登場したり、小道具として鉢植が飾られたりしています。
名だたる歌舞伎役者たちが園芸好きの菊五郎のもとに集合か [梅幸住居雪の景 歌川国貞 個人蔵 (転載禁)]
江戸の人々の園芸熱を、浮世絵を通して知る
これら当時の園芸熱を一気に見られる、展覧会が行われます。たばこと塩の博物館では、2019年1月31日(木)から3月10日(日)まで「江戸の園芸熱 – 浮世絵に見る庶民の草花愛 – 」展を開催します。
役者と園芸を紹介するコーナーでは、尾上菊五郎が植木の手入れをする様子や、舞台で植木売りに扮した役者、小道具として飾られた鉢植えの浮世絵をみることができます。
江戸の花流行花壇 無款 個人蔵[前期展示](転載禁)
ほかにも、園芸の文化に触れる浮世絵及び版画がなんと、計200点も展示されます!
展示内容は前期、後期で入替えが行われます。
気になった方は是非、二度足を運んでみてください。
「江戸の園芸熱 – 浮世絵に見る庶民の草花愛 – 」
会期:前期 2019年1月31日(木)〜2月17日(日)
後期 2019年2月19日(火)〜3月10日(日)
主催:たばこと塩の博物館
会場:たばこと塩の博物館 2階特別展示室
住所:東京都墨田区横川1-16-3 (東京スカイツリー駅から徒歩8分)
入館料:大人・中学生:100円 満65歳以上の方50円
小・中・高校生:50円
開館時間:午前10時〜午後6時(入館は午後5時30分まで)
休館日:月曜日(ただし2月11日は開館)、2月12日
展示関連イベント
【展示関連講演会】
2019年2月3日(日)「陶磁史から見た植木鉢とその魅力」
講師:佐久間真子(愛知県陶磁美術館 学芸員)
2019年2月24日(日)
「江戸歌舞伎と園芸 ー舞台を彩る植物ー」
講師:石橋健一郎(国立劇場 主席芸能調査役)
2019年3月3日(日)
「江戸の園芸ブーム ー技術と情報でたどる園芸文化ー」
講師:平野恵(台東区立中央図書館 郷土・資料調査室専門員)
【たばしお寄席】
2019年2月10日(日)
「長屋の花見」「青菜」桂 歌助
時間:いずれも午後2時〜
定員:90名
会場:3階視聴覚ホール
※参加には入館料が必要です
※当日開館時より整理券を1名につき2枚まで配布します。
問い合わせ
たばこと塩の博物館
東京都墨田区横川 1-16-3
03-3622-8801(代表)
https://www.jti.co.jp/Culture/museum/
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この記事のライター
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