植物生活なあの人 vol.10 岡寛之/フラワーデザイナー
岡 寛之さんは、野菜を花材としたフラワーデザインを発表し、国内外で注目を集めた経歴ももつ、気鋭のフラワーデザイナー。
その作品は、神秘性をまとった、印象的なものばかりです。
世界的にもあまり類をみない、魅力的なオブジェクトの作り手は、どのような内面の持ち主なのでしょう。
これまでの経歴とともに、岡さんのフラワーデザインに対する心構えなどをうかがいました。

相手に型を押しつけない。柔軟なマインドが、人を笑顔に
岡さんにお会いしたのは、虎ノ門ヒルズを会場とするフラワーマーケット「TORANOMON FLOWER MART」の開催日のこと。この日の岡さんは、お花のワークショップ「春を束ねる」の講師でした。
長野県で花農家「信州片桐花奔園」を営む片桐鏡仁さんとタッグを組み、アルストロメリアやオリジナルの植物「カタギリーフ」を花材としたブーケの作り方をレクチャーします。
集まった受講者は、若い女性を中心とする15名ほどの男女で、ブーケ作りが初めてと思われる人も見受けられました。
誰もがリラックスし、わきあいあいとした雰囲気でワークショップが進むなか、ブーケの仕上げ方に迷い、作業をする手を止めてしまう人も。
岡さんは、そうした一人一人に優しく声をかけ、仕上げにまつわるノウハウを丁寧にレクチャーします。
最終的に仕上がったのは、可憐なアルストロメリアがアクセントになった、ナチュラルテイストのブーケ。
生徒は、それぞれの好みも盛り込まれたブーケを胸に抱え、うれしそうに会場を後にしました。
「フラワーデザインにおいては、ルールにとらわれ過ぎないほうがいいと思っていて。本来のルールを鑑みると、今日のお花もスパイラルで束ねるべきなのですが、お花が傷つかず、美しく見えるのであれば、スパイラルにこだわる必要はないと思いました」この日のワークショップを振り返り、こう、岡さんは話します。
自身はもちろん、接する相手も型に押し込めない。
帰路につく生徒さんたちの晴れやかな顔は、講師である岡さんの、そうした姿勢によるものだったのかもしれません。
厳しくも優しい師匠たちのもと、感性と仕事ぶりを学んだ
広島県で青春時代を過ごし、インテリアの専門学校を卒業後、県内のフラワーショップに就職した岡さん。
花の世界に進んだ理由をたずねると、他愛ない答えが返ってきました。
「専門学校の実習で、簡単なブーケを作ってインテリアに添えたり、花の写真を切り抜いてレポートに貼ったりしたところ、思いがけず多くの人に褒めてもらえて。それがうれしくて、次第にフラワーデザインにのめり込みましたね。学校を卒業する頃には、自分の作品を収めたポートフォリオもできていました」
就職したフラワーショップは、フローリスト・荒井楓久香氏が主催する「FleuR AtelieR 談」。
ここでキャリアをスタートでき、ラッキーだったと岡さんは話します。
「荒井さんは、とても美意識が高く、仕事において妥協を許さない方。物事の良し悪しをはっきりとジャッジする面もありましたね。野暮ったい服装で出勤してしまった時、『アパレルショップに行って、洋服をコーディネートしてもらいなさい』と、お金を渡されたこともありました(笑)。さっぱりとした性格の方なので、全く嫌味ではないのですが。なにより、荒井さんのもとで仕事をするうちに美意識が培われ、美しいものとそうでないものの判断ができるようになりましたね。この時の経験は、フラワーデザインの仕事をするうえで大きく役立っています」
3年ほど勤めた頃、“海外のフラワーデザインの現場を知りたい”という思いから、岡さんはコペンハーゲンへ渡ります。
巨匠として知られるターゲ・アンデルセンのもとを直接訪れ売り込んだところ、半年間、アシスタントとして働くことを許されたのだそう。
「ターゲさんは好奇心旺盛で、とてもクリエイティブな方。彼も仕事においては妥協を許さない、厳しい方でしたが、仕事が終わるとスタッフ全員をレストランに連れ出してくれるなど、温かい人柄の持ち主でした。もちろん、生み出すフラワーデザインは、植物の特長が引き出された、美しいものばかりでした」
半年間という短い滞在期間ではあるものの、コペンハーゲンで見たもの、経験したことは、岡さんのフラワーデザインや仕事ぶりに影響を与えているようです。
野菜を美しいオブジェクトに。人々を惹きつける印象的な作品群
帰国後、フラワーショップと花の仲卸での勤務を経て、フリーランスのフラワーデザイナーに転身した岡さん。
現在は、各種クライアントワークをはじめとする幅広い活動を行っています。
また、自身の作品制作にも、定期的に取り組んでいるのだとか。
岡さんの代表的な作品の一つとして、野菜を用いたフラワーデザインがあります。
花材となるのは、大根やトマト、キャベツといった、スーパーマーケットで売られている品々。
作品写真「monograph」(Sticthing Kunstboek / Belgium)より
しかし、岡さんの手にかかると、現代アートのように美しく、印象的なオブジェクトへと生まれ変わるのです。
その類を見ない作品群に注目する人は多く、過去にはベルギーの出版社「Stiching Kunstboek」の依頼のもと、単独作品集『HiroyukiOka MONOGRAPH』を制作したことも。
「“花よりも身近で、気軽に扱える花材はないかな”と考えたのが、こうした作品制作を始めたきっかけです。20代の頃に始めているので、もうずいぶんと長い間、取り組んでいますね。野菜と花は雰囲気が違うけれど、同じ植物であることは確か。ならば、野菜も立派な花材なのでは、という考えのもと、続けてきました」
また、岡さんならではの遊び心も、作品制作の原動力となっているようです。
「野菜をカットしたり、効果的に束ねたりすると、目を見張るほど美しくなることも。作品を目にした人が『野菜ってキレイなんだ!』と驚いてくれるかも、と考えると楽しいですね。また、作品をきっかけに、花やフラワーデザインにも興味を持ってくれたらうれしいです」。
型にはまらない柔軟なマインドのもと、斬新かつ印象的なアウトプットを続ける岡さん。今後も、さまざまな経験を仕事や作品に昇華させながら、新鮮な驚きを与えてくれるでしょう。
取材・写真(インタビュー)/緒方佳子
話をうかがった人
岡 寛之 [ +1ichi ]
https://www.hiroyukioka.com
植物生活イベント「日常/非日常ボタニカル」では、岡さんの空間インスタレーションが会期中ご覧いただけます。
(終了しました)
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この記事のライター
植物生活編集部
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